無断で辞めたアルバイトの給料未払いで支払督促が届いた体験談
小さな町工場を経営する事業主です。
大口の取引先が突然倒産したことにより、経営の危機に陥り、アルバイトの給料支払いを遅らせることでなんとかしのぎ続けていました。
そのアルバイトが無断退職したので、未払いの給料を支払わなくていいと楽観していたところに裁判所から支払督促が届き、弁護士に相談して解決しました。
その後、さらに債務整理も依頼して、経営の立て直しを図っています。
目次
大手メーカーを独立して町工場を作る
小さな町工場を経営する個人事業主です。
法人組織ではなく、ずっと個人事業として経営しています。
私は、子供の頃から物を作ったり組み立てたりすることが大好きでした。
高校も地元から少し離れた工業高校に進学しました。
高校では熱心に勉強して、トップクラスの成績を保ち、大学進学も勧められたのですが、早く社会に出て仕事をしたいと思っていたので進学せずに就職しました。
名前を聞けば誰でも知っているような大手機械メーカーの工場勤務です。
そこで15年間働いて、独立して小さな工場を出すことになりました。
工業部品や機械のネジを製造する工場です。
退職金を頭金にして、公庫から借り入れをして、今は使われていない小さな工場を賃貸で借用し、中古の機械を数台入れて仕事を始めました。
知人の伝手で取引先を紹介してもらい、その取引先から新たな紹介をもらうなどして少しずつ仕事を増やし、懸命に働きました。
仕事が増えるにつれて、1人では手が回らなくなったので、主に単純作業をまかせるアルバイトを雇い、注文をこなしていきました。
大口取引先との契約で、業績が大幅にアップ
転機が訪れたのは創業して3年が過ぎた頃です。
取引先の紹介で大手自動車メーカーの専属で仕事をしている工場「A社」の下請けに入れることになったのです。
下請けの下請け、いわゆる「孫請け」という立場になります。
下請けだろうと孫請けだろうと関係ありません。
毎月安定して、まとまった量の発注を頂けるのですから、こんなにありがたいことはありません。
取引が始まった当初は小ロッドでの発注でしたが、回数が増えるにつれて徐々に発注量が大きくなってきました。
最初は様子を見ていたのでしょうね。
製品の質に問題はないか、納期を厳守しているか、そのあたりを確認されていたのでしょう。
そこに問題がないと判断されたのか、半年が経過した頃からは発注量が急激に増えてきました。
人手が不足することになり、アルバイトをさらに2人増やして、さらには大型の機械を導入しました。
高額な機械でしたが、この導入によって生産効率が大きく高められます。
それまでは深夜まで仕事を続けたり、アルバイトに残業をしてもらったりするなどで対応していましたが、その勤務状況も改善されることになりました。
高い買い物でしたが、自由な時間を確保できることや、アルバイトに手を合わせて残業を頼まなくてもすむようになることを考えると、十分に割に合うと思いました。
特に、余裕のない状態で仕事を続けていると、ミスが起こる可能性もあります。
それは大きな信用問題にかかわることであり、そのことを考えても機械導入の必要性がありました。
新しい機械を入れたことだし、今後さらに発注が増えても無理なく応じられる、いずれはもっと広い場所に移転して、従業員を増やして、営業部門も作って新規の取引先を増やして、第2工場を作って、と夢が広がり、毎日が楽しくなりました。
「飲む・打つ・買う」には興味がなく、工場を大きくすることだけが楽しみとなった毎日でした。
大口取引先が突然の倒産
しかし、そんな日々に暗雲が立ち込め始めました。
大口取引先であるA社の社長が代替わりしたのです。
創業者である初代社長は、一介の職人からスタートして自分の工場を開き、規模を拡大して育てたと聞いており、実際にお会いしたことはなかったのですが 、尊敬の念を抱き、目標としておりました。
その社長が心臓発作で突然死ともいえる亡くなりかたをされ、代わって20代後半の一人息子が社長になりました。
聞いた話では、息子は大学卒業後に一度A社に就職して工場に勤務したのですが、下積みともいえる工場の仕事をつまらないと言って退職し、家を出てフリーターとしてアルバイトを転々としていたそうです。
社長の急逝で急遽呼び戻されて二代目の社長となったわけですが、いくら息子とはいえ、そんな人間をいきなり社長にして大丈夫なのかと不安になりました。
懇意にしている管理課の担当者にその話をすると、創業時から勤めている役員たちがしっかりしており、実際の経営はその方たちがするので大丈夫だと言ってもらいました。
しかし、その不安は的中し、1年ほど過ぎた時、A社が突然の倒産を発表しました。
二代目社長が、自分に直接持ちかけられた大きな取引を独断で契約したのですが、それが悪質な詐欺行為だったようです。
ただ、A社には詐欺であっても、その取引内容は法律上問題がないように巧妙に仕組まれており、正当と認められるため、刑事上も民事上も相手を訴えることはできず、結局A社は大きな損失を出して倒産することになりました。
取引先倒産の余波で経営状態が悪化する
A社の倒産によって、工場の業績はたちまちうちに悪化しました。
売上の半分以上がA社との取引によるもので、それがまるまるなくなることになったのです。
もっと早くから新しい取引先を開拓し、A社への依存度を低くしておくべきだったのですが、目の前の仕事にかかりきりで、新規開拓のことまで考える余裕がなかったのです。
アルバイトの人数を減らして2人だけを残しました。
その2人に生産作業をまかせ、日中は外に出て新規の取引先を開拓すべく営業にまわりました。
しかし、新規開拓はなかなかうまくいきません。
既に固定取引先を持っているところが多く、そこにくいこんでいくためには納入単価を低くせざるをえません。
それでも仕事ほしさに安い金額の見積もりを出して、仕事は確保したものの、利益はほんのわずかで労力に見合ったものではないといったケースが多くなりました。
経営状態も悪くなり、工場の家賃、機械のローン、アルバイトの給料、光熱費などを払うと手元にはほとんど何も残りません。
自分の生活費はわずかな貯金を取り崩し、それがなくなるとクレジットカードや銀行や消費者金融のカードローンでまかなっていましたが、それも限界に達しました。
それからは光熱費、機械のローン、家賃の支払いを優先し、アルバイトの給料支払いを遅らせることでしのぐようになりました。
アルバイトが無断で出社しなくなり、退職扱いに
出口の見えないくらいトンネルを手探りで進むような毎日が続く中、2人のアルバイトのうち1人がやめると言い出しました。
突然やめられても困るので慰留しましたが、どうしてもやめると聞き入れません。
では次のアルバイトが決まるまでは残っていてくれと説得し、わかったとの返答を受けて安心しました。
しかし、その翌日からその男は出勤しなくなりました。
電話にも出ず、直接自宅を訪問しましたが不在なのか居留守なのか応答はありません。
しかたがないのであきらめて退職扱いにしました。
未払いの給料がありましたが、無断でやめるなど逃げだしたやつが悪いのだからと決めつけて、そのまま放置することにしました。
逃げていったのだから給料もあきらめるだろうとの甘い考えもありました。
新しいアルバイトはなかなか決まらず、私は昼間は営業と工場での作業を半々にして、夜は深夜まで工場に残って仕事を続け、寝る間も惜しんで休みなく働き続けました。
退職したアルバイトから未払い給料の支払督促が届く
2ヵ月後、裁判所から文書が届きました。
もしかして倒産した取引先に関することかと思いながら開封すると、「支払督促」とあります。
内容を確認すると、逃げ出したアルバイトの男に支払っていない2ヵ月分の給料を支払えというものです。
逃げ出して迷惑をかけた者に給料など支払う必要などないだろうと思いましたが、直接の連絡ではなく裁判所がからんでいることもあり、念のため弁護士に相談することにしました。
弁護士の回答は、「無断で退職した場合であっても勤務した分の給料は支払わなければならない」「このまま放置していると訴訟を起こされ、勝ち目はない」と宣告されました。
弁護士に依頼して任意整理で解決を図る
弁護士に相談をして、そのアドバイスに従って、元アルバイトのその男に10回の分割で未払いの給料を支払うことを提案し、承諾を得たので翌月から振込を始めました。
必要経費の支払いに加えて、クレジットや消費者金融への返済、さらには未払い給料の支払い、と支出がかさみ、どれだけがんばって働いても手元には何も残らない状態が続きます。
時には借金の返済のためにまた借金をするという悪循環となり、その状態に耐えられなくなった私は再度弁護士のもとを訪れました。
現状を包み隠さず話したところ、任意整理を勧められ、弁護士に依頼してその手続きを行ないました。
クレジットや消費者金融などへの借金を減らしてもらい、ローンが残っている機械を売却して、ローンの残債に充当し、さらに残る債務も減額してもらうことになりました。
工場の売上額は以前とさほど変わりませんが、支払額が少なくなった分、なんとかぎりぎりで経営が成り立っています。
機械がなくなったので生産効率は落ちましたが、残ったアルバイトといっしょに汗と油にまみれて仕事を続けています。
長い人生、山もあれば谷もあります。
谷底に落ちた時も、もう一度やり直せるようにと用意されているのが債務整理ではないでしょうか。
私は再度、この仕事でやり直して、次の山を目指します。